咳・喘息に7つのタイプ?原因と薬膳処方その7・弁証論治トレーニング⑳

咳・喘息についての弁証論治は今回が最後です。
臓腑機能の虚鵲が原因のタイプの1つ、「脾」の働きが低下して引き起こされるものです。
「脾」は中医学独特の概念でとらえた臓です。西洋医学でいう脾臓のことだけではありません。
「脾」とは、胃で初期消化された飲食物を、水穀精微と呼ばれる栄養豊富な精微物質に変化させ、気血津液精を作り出すという働きそのものを1つの臓として表したものです。脾臓や膵臓、胆のうなどの作用も含めた働きをする臓と位置付けているのです。
症例⑳・・・痰湿証
痰がからむ重い咳、痰は多くて粘稠で白い、痰が溜まると咳が出て吐き出すと治まる、肥甘厚味(油っこいもの・甘いもの・味の濃いもの)を食べると悪化する、毎朝あるいは食後に咳が出て痰が多い、胸悶(胸苦しい)、脘痞(胃脘部が痞える)、食欲がない、下痢、吐き気、倦怠感、舌苔白膩、脈滑(脈濡滑)など。
症状の分析
まずは肥甘厚味を食べると悪化、食後に咳、脘痞、食欲不振、下痢などの症状から、消化器系に問題を抱えている、即ち脾の働きが失調していると推測できることを手掛かりに考えてみましょう。
痰多、重い咳、粘稠白痰→痰湿が多く停滞し、肺気の宣発粛降の働きを阻害していると思われます。
肥甘厚味で悪化、食後に咳と痰→肥甘厚味の過食は脾に負担をかけ、脾の「運化を司る」働きを失調させて、湿を停滞させやすくなります。
脾の運化作用とは、脾が食物を消化して作り出した精微物質を全身に送り営養すること、また体内の水分代謝を調節することをいいます。この水分代謝が順調でないと、代謝され排泄されるべき余分な水分が停滞して湿になります。湿はやがて痰を形成します。
脾が傷むと脾気も虚弱になるため、食後は一層脾気を消耗して「運化を司る」ことができなくなり、痰湿が増え、それが肺気の宣発粛降の働きを阻滞すると咳と痰多をひきおこします。
朝に咳と痰多→陰陽学説では、朝は陽に、夜は陰に属します。そして気は陽に、血・津液・精は陰に属します。朝の目覚めとともに、気(陽気)は全身を勢いよく巡り始めるので、停滞している痰が動かされて咳や喀痰をひきおこします。
痰が溜まると咳、吐き出すと治まる→脾の運化作用が失調しているので、湿が停滞しやすいうえ、飲食するたびにさらに湿は形成されます。喀痰する(痰湿が減少する)と、一時的に脾の負担が減るので咳が治まります。
脾気は昇る(上に向かう)のが本来の方向で、精微物質や津液を上方の肺に送って、そこから全身に散布するシステムになっています。ですが、同様に脾に停滞する痰湿も運ばれるのです。痰湿の形成と停滞については「脾は生痰の源、肺は貯痰の器」と表現されるように、両者には深い関係があります。
胸悶、脘痞、吐き気、食欲不振→脾の運化作用が失調し、消化機能が低下しているためです。
下痢→脾の運化作用が失調し、消化機能が低下。水分代謝機能が低下し、水湿が腸に降りてしまうためです。
倦怠感→脾気や肺気の虚弱が疑われることから、脾の「四肢を司る」働きが低下しているためと思われます。また、肺の「全身の気を司る」働きも低下しているためと思われます。
舌苔白膩→膩はネバネバした感じ(糸を引くような感じ)を表します。湿の停滞を表す舌象です。
脈滑(濡滑)→痰飲や湿病に見られる脈象です。
弁証
痰湿阻肺証、痰湿壅肺(ようはい)証、痰湿蘊肺(うんはい)証、痰湿証など。
立法
健脾燥湿化痰、健脾化痰止咳、または 健脾燥湿と化痰止咳 など。
方剤
二陳湯、三子養親湯 など。
二陳とは、2つの古品の中薬が主薬になっていることを表しています。陳皮(温州ミカンの皮)と半夏(カラスビシャクの塊茎)という中薬で、中薬として加工されてから長く保管されたものが良品とされるため「陳」(のべる)という文字が使われています。
三子とは、3つの種を表します。蘇子(紫蘇の種)9g、白芥子(白からしの種)6g、莱菔子(大根の種)9gで構成されていて、種をつぶして布で包み、1日に何度も煎じて飲みます。
三子養親…ってなんだか親孝行な物語っぽい名前で、おもしろいなと感じます。簡単に作れそうですが、くれぐれも園芸用の種子を使わないでくださいネ!
よく使う食薬
健脾利水滲湿類・・・ハトムギ、小豆、大豆、トウモロコシ、冬瓜、金針菜、はも、鯉、しらうお、トウモロコシの鬚、茯苓、冬瓜皮など。
苦温燥湿類・・・陳皮、みかんの皮、橙、うど、など。
芳香化湿類・・・藿香、砂仁、佩蘭など。
辛温解表類・・・紫蘇、香菜、生姜、ネギ、三つ葉など。
弁証施膳の例
カボチャとハトムギ、鶏肉の炒め物
カボチャ200g、鶏むね肉1枚、ハトムギ30g、みかんの皮1/2個分、サラダ油少々
Ⓐ塩小さじ1/2弱、酒大さじ1、卵白大さじ4、かたくり粉大さじ1、コショウ少々
Ⓑ酒大さじ2、みりん大さじ2、水大さじ5、コショウ・かたくり粉・ごま油各少々
作り方
①ハトムギはざっと洗い、熱湯に漬けて1晩置き、その後漬け水ごと火にかけて30分ほどゆでて水けを切ります。
②鶏肉は7㎜程度の厚さに切り、Ⓐをよく混ぜたものをもみこんでおきます。
③Ⓑをよく混ぜておきます。みかんの皮はよく洗い、白い部分をできるだけ取り除き、千切りにしておきます。
④カボチャを7ミリ程度の厚さに切り、皮の汚れや堅いところを取り除いておきます。沸騰した湯で5分ほどゆでて取り出し、続けて鶏肉を丁寧に広げて1枚づつさっとゆでます。
⑤フライパンにサラダ油を熱し、ハトムギ、カボチャ、鶏肉を炒め合わせⒷを手早くからめます。仕上げにみかんの皮を加えます。
カボチャの甘みと、あっさりした鶏むね肉で優しい味わいの炒め物です。下味に使ったかたくり粉で、口当たりも柔らかです。
陳皮が手に入れば、柔らかくなるまで水に浸しておき、炒め合わせるときに加えるといいでしょう。
カボチャと鶏は補脾益気に、ハトムギは健脾利湿に、みかんの皮は燥湿利気に働きます。
ポイント
咳・喘息についての弁証論治はいかがでしたか?
おもに咳の症例として説明してきましたが、「喘息」についてはどうでしょうか。喘息は中医学では喘証といい、咳の発作があり、呼吸困難、張口抬肩(ちょうこうたいけん・口を開け、肩で息をする)などの特徴があります。ひどい場合には気絶してしまうこともあります。
喘息はそれ自体が肺の病症あるだけでなく、多くの急性、慢性疾患に現れることがあります。発症のプロセスは先に7つのタイプに分けて学んだものに共通しています。
症状が長引くことが多く、特に臓腑の虚弱が原因の場合は慢性化することが多いです。ふだんから風寒の邪気や埃を避け、飲食摂生、禁煙、禁酒を心がけることが大切です。ストレスなどで発作のおきる人は、情緒を穏やかに保てるように注意しましょう。また適度な運動習慣で体を鍛え、気を増し充実させるようにしましょう。
お疲れさまでした!次回は、試験で出題される弁証論治にどう答えるか?についてまとめてみたいと思います。
お付き合いいただきありがとうございました。
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