咳・喘息に7つのタイプ?原因と薬膳処方その6・弁証論治トレーニング⑲

おじいさんや、おばあさんたちってよく咳をしていますね。激しくはないけれど、しばらく咳き込んで痰を吐きだすような…慢性化していることが多く、辛そうでお気の毒です。
今回は老化や慢性病により、臓腑の機能が衰えるとひきおこされる咳・喘息の代表的なタイプについてです。
症例⑲
咳・喘息、息切れ、息が続かない、痰は希薄で白い、疲れやすい、声が低く力がない、自汗(気温や運動に関係なく、じっとしていても出る汗)、舌淡苔薄白。
さらに、動くと喘息が悪化する、呼多吸少、足がむくむなど。
症状の分析
自汗→臓腑の「気」が虚弱になると現れる、特徴的な汗の症状です。「皮毛を司る」肺や、「肌肉を司る」脾、「汗は心の液」の心、とくにこれら3つの臓の気虚ではよく現れる発汗の症状です。
今回の分析は、まずこの「自汗」=気虚 を手掛かりに分析を始めましょう。
息切れ、息が続かない、声が低微→肺気の不足が疑われます。肺の「全身の気を司る」働きが低下すると呼吸を司ることができません。宣発粛降が失調し咳・喘息の症状もひきおこされます。
疲れやすい→気が不足すると、(脾気の働きが低下して)水穀精微の生成が不足し気血津液精が作られず、臓腑組織が営養されません。(肺気の宣発粛降の働きが低下して)全身に送られません。(腎気が不足すると)腎精も不足し、神が養われず精神疲労がひきおこされます。
一般的に、私たちは疲れたときに「元気が出ない」と表現しますね?疲れと気の関わりを示す身近な例です。
痰が希薄で白い→気虚や陽虚に見られる痰の状態です。症例では、ほかに冷えの症状がないので、気虚と考えていいでしょう。
舌淡苔薄白→淡は薄い色です。正常な舌色は淡紅色ですから、やや血の気の薄い印象ですね。気虚や陽虚、血虚に見られます。
舌苔は薄白は正常の範囲内です。つまり、熱や湿の停滞はこの舌象では見受けられないということです。
舌苔は主に胃気と深い関係にあります。この症例のように肺には痰湿があり、足にはむくみがあっても舌象では湿の症状が現れていないことがあります。全身の症状を分析し、総合的に判断することが大切です。
動くと喘息が悪化→気虚証では、活動するとエネルギー物質である気を消耗するので、症状の悪化がよくおこります。
呼多吸少→呼吸において、吸う息よりも吐く息の方が多い状態をいいます。
呼吸は肺と腎が協力して行われていて、腎の「納気を司る」働きが、肺で吸い込んだ新鮮な空気を体の深い部分まで引き入れる役目を担っています。深呼吸やヨガの呼吸法で、へその下「丹田」まで深く吸い込むようにいいますが、それは腎の「納気を司る」働きです。腎気が虚弱になると、肺とうまく連携が取れなくなり呼多吸少となりがちです。
肺と腎は五行学説では母子関係にあり、肺の病症は腎に影響しやすいといえます。
また、老化により臓腑はだんだん虚衰してきますが、なかでも腎は老化現象と深く関わります。肺病の影響を受けなくても、症例の患者が高齢ならば、腎の衰えを疑ってみるべきです。
足がむくむ→むくみは、何らかの原因で湿が停滞していることを表します。特に下半身・足にむくみが現れるときは、腎の「水を司る」働きの低下が疑われます。腎気不足や腎陽不足では腎の気化作用が低下し、まだ使える水分を上に送ることや、使えない水分を尿に生成することができなくなり、水分は下へと降りて行ってしまいます。
弁証
肺腎気虚証など。
立法
補腎益肺、補肺益気と補腎納気 など。
方剤
人参蛤蚧散など。
よく使う食薬
補気類・・・米、山芋、椎茸、インゲン、栗、ウナギ、カツオ、サワラ、スズキ、鶏肉、烏骨鶏、豚の肺、豚の腎、ハチミツ、吉林人参、党参、黄耆、大棗、白朮など。
助陽類・・・エビ、ナマコ、羊肉、クルミ、冬虫夏草、蛤蚧、淫羊藿、肉蓯蓉など。
一般的に、気虚が悪化すると陽虚になるといいます。老化や慢性病で虚衰している場合、回復には時間がかかり完治もむずかしいですし、症状が悪化しないように気をつけることが大切です。
中医学では「治未病」の観点から、今はまだ現れていない症状や、次に影響を受けやすい臓腑を先に補養することをすすめています。
肺と腎の気虚証ですので補気類を中心に使いますが、悪化に備えて助陽類を組み合わせます。助陽類はただ体を温めるだけではなく、腎を補う作用があります。
また、虚弱の程度が強いときは、食薬は植物性のものより動物性のものをすすめます。補う力がより強いためです。
弁証施膳の例
栗と鶏の炊き込みご飯
米2カップ、鶏もも肉1枚、むき栗100g、椎茸3枚、ニンジン30g、山芋50g、むきギンナン20個、酒・しょうゆ各適宜。
①米を洗い、ザルにあげておく。
②栗とギンナン以外の材料を小口に切る。鶏肉は分量外の酒としょうゆ少々で下味をつけておく。
③炊飯器に米を入れて普通に水加減し、酒・しょうゆで味を調える。
④残りの材料を全て加えて、普通に炊飯する。炊き上がったらさっくり混ぜ合わせる。
ポイント
炊き込みご飯は、材料を変えて薬膳を作りやすい調理法です。
補気類をメインに、止咳平喘類のギンナンを加えています。冷える症状があれば、鶏肉をエビに替えたりクルミを使うと効能がアップします。
クルミは、薄皮の渋味が収渋作用を持ち、斂肺に作用しますからつけたままがいいでしょう。
山芋は自然薯のことですが、つくね芋や長芋、じゃが芋でもいいですョ。ただし長芋は水分が多くベチャつくので、湯通しして炊き上がりに混ぜるといいでしょう。
このような虚証の咳・喘息は補ってもすぐには回復しにくいものです。また季節変化などに対応しづらく邪気を受けやすくなっています。すると繰り返し発作をおこしやすく、激しい発作では、汗とともに気が脱してしまい治療が難しくなっていきます。
ふだんから気候変化に気をつけて、カゼをひかないようにし、飲食不摂生をつつしみ、タバコや刺激性の気体や埃を避けるようにしましょう。
症状が改善してきたら、肺・腎・脾を調え、補益を続けるようにしましょう。正しく深い呼吸法を体得するには、気功やヨガなどがおすすめです。
次回は、痰湿の停滞が原因の咳・喘息についてです。日本の女性に多いタイプですよ。
お付き合いいただきありがとうございました。
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