咳・喘息に7つのタイプ?症状と薬膳処方その1・弁証論治トレーニング⑭
咳・喘息といっても原因や一緒に現れる症状はいろいろ・・・中医学では季節性のあるものと、五臓の弱りが原因のものを合わせると、咳・喘息は7つのタイプに分かれるんです。
それぞれの症状の特徴と原因、症状を改善するための薬膳処方についてまとめました。
季節性のある3つのタイプを⑭~⑯、五臓の弱りが原因の4タイプを⑰~⑳に分けて、弁証論治トレーニングの形式でご説明します。
症例⑭・・・冬カゼの咳
咳の声音が重く大きい、息切れや息が荒い、のどがイガイガして痛痒い、痰が薄くて白っぽい、鼻水鼻詰まり、頭痛、悪寒発熱、汗はない(または有る)、舌苔薄白、脈浮など。
咳の声音が重く大きい→風寒の邪気が肺の「宣発粛降を司る」働きを阻滞するため、(なんとか通そうと肺ががんばるので)咳の声音は重濁し大きくなります。
風寒の邪気とは、風邪と寒邪が合わさり病気の原因となったものです。
風邪(ふうじゃ)は自然界にあるさまざまな病気の原因となるものを体に入り込ませる性質を持ち、一年中吹いていて、わずかな隙があれば知らない間に入り込む風のようであることからついた名です。急に発症し、症状が次々と現れて変化が速いです。一般的にカゼと呼んでいるものがこれにあたります。
寒邪(かんじゃ)とは、冷えや冷えによる気血の滞りや疼痛をひきおこす邪気のことです。例えば冬の寒さや冷たい水、強すぎる冷房などが体に作用して悪影響を及ぼす場合を寒邪と考えます。
肺は新鮮な空気を得られる清潔な環境と、温かく潤った状態を好むとてもデリケートな臓です。ですから冷えて乾燥した冬の気候がもたらす風寒の邪気は、もっとも肺が嫌うものです。
肺は呼吸により「全身の気を司る」働きと、腎と協力して全身の水液代謝(通条水道)に関わっています。これらの肺の働きを宣発粛降(せんぱつ・しゅくこう)といいますが、風寒邪気によって肺が傷むと宣発粛降がスムーズにいかずさまざまな症状が現れるのです。
喉がイガイガして痛痒い→肺は呼吸器官の喉と密接に関係します。肺機能の失調はすぐに喉にも現れます。肺は脾胃で作り出された津液(体のよい水分)を全身に散布する役割がありますが、宣発粛降が阻滞されのどの粘膜も潤せないためです。
鼻水鼻づまり→肺は鼻に開竅する(通じる)といい、肺の状態が反映されやすいです。肺が水液代謝を正常に保てなくなると鼻づまり、鼻水(あるいは乾燥が強ければ鼻の乾燥)が現れます。寒邪の影響や、発熱が高くないときは鼻水は水っぽく薄いものになります。
風邪の特徴として、風は高い所ほど強く吹くように、上半身や頭面部など体の上の方に症状が現れやすいということがあります。また痒みという症状も特徴の一つです。のどの痛痒さ、鼻の症状が現れる理由の一つです。(春先の風邪ひきでは目が赤い痒いということもあります)
痰が薄くて白っぽい→肺の「宣発粛降を司る」が失調し、津液の全身への輸布(散布する)ができず滞るとしだいに痰が形成されます。きれいな水も流れがなく溜まったままだと、だんだん澱み汚れてくるのと同じ理屈です。寒邪の影響や発熱があまりないことから、痰は加熱されないので水っぽく色もあまりありません。痰や鼻水は熱の影響を受けると、煮詰まってくるように、だんだん濃く粘って黄色くなります。
頭痛、悪寒発熱、汗がない→風邪ひきの初期症状です。体に邪気が侵入しようとするとき、まず体の表面近く浅い部分で「正気」と「邪気」が戦いますが、正気が充実していると戦いは激しくなり、しっかりと防御しようとするため汗は出ません。一方、正気が弱いと体表近くの防御は弱く、汗腺も開きやすくなるので汗が出ます。
脈浮、舌苔薄白→風邪ひきの初期症状です。
今回のテーマでは咳・喘息と痰についてくわしくお伝えしています。寒い時期の風邪の症状と薬膳処方については以下の記事をご参考になさってください。
↓ ↓ ↓
弁証
風寒塞肺証、風寒証など。
立法
温肺散寒止咳 または 疏風散寒と宣肺止咳 など。
方剤
麻黄湯加減(桔梗を加味)、止嗽散、三拗湯など。
よく使う食薬
辛温解表類・・・生姜、ネギ、紫蘇、香菜、茗荷、桂枝など。発汗させて、体表近くに留まっている邪気を追い出します。
化痰止咳平喘類・・・からし菜、芥子の種(マスタード)、紫蘇の実(種)、莱菔子(大根の種)、甜杏仁(アンズの種、杏仁霜でもよい。生のアーモンドでも代用できる)、桔梗など。咳を鎮め痰を解消する作用を持つもののうち、温性のものを選びます。
弁証施膳の例
からし菜のお粥・・・米1/2カップ、からし菜1/2把、水(米の8~10倍量)
米を洗って水とともに火にかけ、お粥を炊きます。炊き上がる少し前に刻んだからし菜を加えて塩で味を調えます。手に入れば、甜杏仁5個を米と一緒に炊くとなお効果的です。なければ生のアーモンドでもいいでしょう。
からし菜をスープや、アサリや鶏肉などとあっさり塩味で炒め物にしてもいいですね。
芥子の種は中薬では「白芥子」(はくがいし)といいます。使うときは炒めてやや焦がしたものを使います。白芥子3g、紫蘇の種「蘇子」(そし)6gと、大根の種「莱菔子」(らいふくし)6gと一緒に10分ほど煎じたものもおすすめです。こちらは薬膳茶というより方剤に近いでしょう。過量に使いすぎないようにしましょう。
ポイント
ふだんから痰や鼻水などが多い人は、体に余分な痰湿が溜まっていることが多いものです。水液代謝には肺・脾・腎が主に関わりますが、なかでも脾は食べた飲食物から気血、津液、精を作り出す生産工場の役割を担っています。
甘いもの、脂っこいもの、味つけの濃いもの、偏食などで脾を傷めると「運化を司る」働きが失調し、水液代謝作用が低下してしまいます。使われない運ばれない水液は澱んで滞り、痰湿に変化します。
このようなことから脾は「生痰の源」の別名があります。脾は温かく乾燥した状態でよく働くことができるので、ふだんから痰湿をため込まないように心がけることが大切です。利水滲湿類といって利尿して余分な湿を取り除く、ハトムギや冬瓜、豆類、金針菜、トウモロコシなど。また陳皮などは燥湿化痰の作用がありおすすめです。
脾が「生痰の源」ならば、肺は「貯痰の器」という別名があります。やはり水液代謝に関わり、痰湿が滞りやすく症状も多く現れることによります。中医学は長い歴史の中で臨床観察を続け、なるほど!という命名をしていますね。
次回は、春~秋に多く熱感の強いタイプについてです。
咳・喘息に7つのタイプ?症状と薬膳処方その2・弁証論治トレーニング⑮ をご覧ください。
お付き合いいただきありがとうございました。
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