糖尿病は三多一少・その3、弁証論治トレーニング⑬


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中医学では病症の進行度や軽重の程度を、症状がどの臓腑に現れているか?をもとに探ることがあります。一般的に、外邪を受けたときは肺や胃から症状が現れ始めて、脾→肝腎とだんだん奥深くの臓腑へと伝わっていくというイメージです。

消渇証は、体の内から病気の原因が作られていく内邪(内慯)によりひきおこされますが、初期は自覚もなく早く対処すれば回復できるケースが多いものです。ですが進行すると体の深い臓腑に症状が強く現れ、重症化することが多くなります。

今回は、腎に強く症状が現れる下消についてです。


症例⑬

ここ何年か糖尿病と診断され、治療を受けている。日常生活にそれほど不便を感じず、医師からの食事や生活指導もさぼりがちである。

最近頻尿の度合いがひどくなり、尿量が多い、尿が濁り甘い匂いがする、口や舌が渇く、足腰がだるく冷えもありすぐに疲れる。顔色が黒ずんだようでつやもない、特に耳たぶが黒ずんでいる、舌淡苔白乾燥、脈細無力。

 

症状の分析

頻尿悪化・尿量多い→糖尿病の悪化で、陰虚が進行し腎陰虚となっているためと考えられます。「腎は水を司る」ことができず、気化作用が低下し水分の再吸収と尿の管理ができないためです。飲一尿一と表現されるように、飲むと直ちに尿が出てしまう状態です。

尿混濁・甘い匂い→腎(腎気)の固摂機能が失調し、本来漏れてはいけないもの(水穀精微や腎精)が尿に降りてしまうためです。

口・舌の乾き→虚熱によりすでに肺の宣発粛降、通条水道の作用が失調し、臓腑、組織は滋潤されておらず、陰虚がすすむといっそう虚火により乾く症状が強くなるためです。

足腰だるい・冷える→腎が虚すと足腰にだるさや痛みの症状が現れます。「腰は腎の府」(腎の家)であり、「骨を司る」のです。

冷えが現れたことは、陰の虚衰に伴って陽も衰え始めたということの表れです。陰陽は互いにバランスを取り合って正調を保っています。陰陽どちらかだけが健全であるということは決してないのです。

顔色・耳たぶが黒ずむ→胃熱熾盛で十分な水穀精微が作られず、さらに全身の水液代謝が失調していて、水分も水穀精微もすぐに尿として出てしまう状態では全身は営養されません。つやがなく枯れた感じになります。気血津液精の生成が足りない状態が続くとそれらの循環も悪くなり、濁陰だけが取り残され黒ずみ汚れたようになります。「腎は耳に開竅する」ので腎の状態は耳に現れます。

舌質淡苔白乾燥→気陰両虚が現れていると考えられます。陰虚だけなら舌質は熱を表す紅となり、苔は黄色味を帯びます。いずれにしても虚熱で津慯しているので乾燥しています。

脈細無力→あるいは脈沈細無力。病位が深く(腎病)、気血が虚していることがうかがえます。

 

弁証

消渇証の下消腎陰虚証陰陽両虚証など。

前述の症状のほかには、めまい、耳鳴り、健忘といった腎精が不足し脳を養えない症状や、夢精や遺精のように「腎は蔵精を司る」ことができず精液が漏れる症状も現れます。

五心煩熱、盗汗、午後微熱、潮熱、骨蒸労熱(体の深部から湧いてくるような熱)といった陰虚に特徴的な症状があれば腎陰虚、または腎陰虚の消渇証(下消)でいいです。

気虚や冷え(陽虚)の症状が現れているときは陰陽両虚証、または陰陽両虚の消渇証(下消)と答えられるとなおいいですね。

 

立法

腎陰虚証の場合は滋陰固腎 または 滋陰養腎 など。

陰陽両虚証の場合は温陽滋腎固渋 または 滋陰温陽 など。

消渇証は多くの合併症が引き起こされる病証です。血流障害による瘀血には活血化瘀類を、皮膚感染症などには清熱解毒類を、白内障には補益肝腎する明目の食薬を、手足のしびれ・麻痺などには益気活血・通絡の食薬を組み入れていく必要があります。

 

方剤

六味地黄丸加減。 六味地黄丸は腎陰虚証の代表的な方剤ですが、処方の中の山薬や山茱萸は増やしていいでしょう。山薬は脾気胃陰を養い、山茱萸は固腎益精して水穀精微を固摂するからです。

八味地黄丸。 八味地黄丸は、六味地黄丸に腎陽を温める中薬を加えています。

 

よく使う食薬

滋陰養腎・・・山芋、黒豆、黒ゴマ、小麦、粟、スッポン、卵、牡蠣、ホタテ、枸杞子、桑椹、地黄、女貞子、黄精、山茱萸、芡実、石斛、亀板、鼈甲など。

温陽滋腎固渋・・・クルミ、えび、ナマコ、岩魚、貝類、熟地黄、黄精、山薬、山茱萸、五味子、蓮子、肉蓯蓉など。

 

弁証施膳の例

牡蠣とクルミ・ニンジン・長芋の黒酢炒め。 滋陰養血益腎の牡蠣、温陽補腎のクルミ、補気養血のニンジン、滋陰補気固摂の長芋と、活血に黒酢を合わせています。クルミは薄皮をつけたままが固渋に働きます。

黒酢を加熱すると酸味が和らぎ、コクがでて濃い味付けをしなくてすみます。塩で味付けするだけでもおいしく食べられるでしょう。


3回に分けて消渇証についてお伝えしてきましたが、いかがでしたか?それぞれに特徴があって覚える手掛かりになりますね。

消渇証の養生については、守るべきことが多いと思います。治療と同時に食事療法、運動療法を続け、根本体質の改善にも努めなければなりません。網膜症・腎症・神経障害の三大合併症の予防はもちろんですが、体が虚衰しているとそのほかにもさまざまな病邪の侵入をゆるしてしまいます。ふだんから体調変化や季節変化を敏感に感じ、備えてください。

お付き合いいただきありがとうございました。

 

 

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