糖尿病は三多一少・その2、弁証論治トレーニング⑫

中医学では、糖尿病のことを「消渇証」(しょうかつしょう)と呼びます。特徴は三多一少(さんたいっしょう)といい、三多は多飲・多食・多尿、一少の少は消痩・やせるという意味です。
症状の現れ方や関わる臓腑により、上消・中消・下消の3つに分けています。今回は中消についてです。
症例⑫
中堅企業の管理職、夜遅くまで接待や飲酒が多い。日々ストレスを感じることも多く、ついタバコの数も増えてしまう。
もともと食べることが好きだが、最近はいくら食べてもすぐにお腹がすく、食べているのに痩せてきたし疲れやすい。口が渇き口臭がある、便秘がち、舌苔黄、脈滑有力。
症状の分析
食べてもすぐに空腹になる→消穀善飢(しょうこくぜんき)といいます。飲食物を消化する脾胃は「水穀の海」と呼ばれ、ここに熱があると胃の消化機能が過剰に亢進し、消化過多になるためです。
痩せる・疲れる→消化された飲食物が熱により消耗すると、水穀精微が不足し脾で気血津液精が十分に生成できません。「脾は肌肉を司る」ことができず痩せてきて、筋肉も営養できず疲れやすくなります。
口が渇く・口臭→胃熱で津液が消耗するため口が渇き、胃で腐熟された飲食物の臭いと胃熱が結合し上がってくるため臭います。
便秘→脾で津液が十分に作れず潤せない、脾胃に熱により腸が乾燥するためです。
舌苔黄→舌苔は主に胃気の状態を表します。黄色は熱証を表しています。
脈滑有力→胃熱が強いことを表している脈象です。
喫煙→タバコは体内に熱毒を取り込む行為です。呼吸器官や肺、胃、大腸に熱毒を与えるほか、解毒排毒という点から肝腎にも悪影響があると考えられます。
飲食の不摂生が脾胃を傷めると湿熱を生じ、内熱となってこもること。そのような熱が肺に影響するケースを「上消」として、前回ご説明しました。
今回は飲食の不摂生も見られますが、ストレスも原因の一つとして挙げられます。怒りやストレスなど悪い情緒刺激により、肝気は鬱結します。肝気の鬱結が長く続くとだんだん熱化してきます。
熱が上に上がるとイライラと怒りっぽくなる、目が充血する、頭痛、不眠などをひきおこしますが、体の上の方にある臓腑にも熱がこもってくるのです。主に肺・心・胃などです。
症例⑫は脾胃の失調による胃熱と、ストレスで生じた鬱熱による胃熱の両方が考えられますね。忙しい管理職世代に糖尿病が多いことがうなずけます。
弁証
消渇証の中消、胃熱熾盛証(いねつしせいしょう)など。
胃に強く熱がこもり飲食の消化が過剰になると、いくら食べてもお腹がすき、食べても痩せていくという症状は、消渇証の特徴の1つです。
立法
清熱瀉火と養陰生津、清胃瀉火、潤燥通便など
胃熱を清すること、消耗した津液を回復することを主とします。症状にある便秘を解消する潤燥通便ですが、これは便秘の解消と同時に、燥結した便を排泄することで熱を瀉するという治療方法でもあります。
方剤
玉女煎(ぎょくじょせん)・・・肺胃の熱を鎮めて、肺胃の陰を補います。便秘に対応していないので、潤燥通便する増液承気湯を一時的に併用してもいいです。
ポイント
胃熱熾盛は、上消に分類されることもあります。
中消は慢性化すると気も虚してきて、ますます陰液を消耗します。この状態を「気陰両虚証」といいます。胃熱は悪化し、脾気虚失運の症状が現れ、食欲減少・精神不振・下痢・舌質紅・舌苔白乾燥・脈弱などに変わります。
この場合立法は「益気養陰」となります。
よく使う食薬
清熱類、滋陰類、涼性、平性のもの
白菜、セロリ、キュウリ、トマト、山芋、粟、豆腐、豆乳、牛乳、チーズ、卵、豚肉、鴨肉、馬肉、貝類、麦門冬、玉竹、石斛、沙参、黄精、地黄など。
弁証施膳の例
セロリとトマト、豚薄切り肉のスープなど。
胃は喜潤悪燥といって、十分に潤っている状態を好みます。ただ水をたくさん飲むのではなく、食物とともに営養を含んだ水分を摂れるようにします。糖質の摂取に注意が必要なのはもちろんですが、辛味や苦味のものは乾燥をすすめるので控えます。あっさりとした味つけを心がけましょう。
ポイント
2回に分けて上消・中消について説明しましたが、違いがわかりましたか?
症例として飲食不摂生やストレスを挙げましたが、ほかにも運動不足や過労、過度の性生活などにより内熱が生じ、陰が消耗していきます。もともと陰虚体質の人はいっそう用心が大切です。
わかりやすく肺系の症状、胃系の症状、腎系の症状に分かれていますが、実際に臨床では複数の症状が同時に現れたり、どれかに偏ったりすることが多いものです。
消渇証の初期は肺胃の燥熱が主となることが多いのですが、長引き慢性化すると陰虚あるいは気陰両虚が主になってきます。
次回は下消についてです。お付き合いいただきありがとうございました。
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