朝方に下痢が続く…弁証論治トレーニング⑧


 

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症例

62才男性、診察日11月15日。もともと食が細く、それほどたくさん食べないのに、1年ほど前から朝方によく下痢をする。いつもお腹や足腰の冷えと痛みを感じている。温めると気持ちがいい。       足腰がだるくて、むくんでいる。めまい、耳鳴り、心悸がする。尿清長(薄くて多い)で尿漏れがある。顔色晄白、舌淡胖大、舌苔薄滑、舌辺に歯痕、脈沈遅。


分析

65才という年齢、食が細い→体が虚してくる年齢、常に脾気不足ぎみの疑い(気虚の悪化は陽虚にすすみやすい)。

慢性的な朝方の下痢→五更泄瀉(ごこうせっしゃ)という。脾胃が弱く気の生成不足は他の臓腑の気も 不足する。腎気虚から腎陽虚になっている疑い。朝、体に陽気が巡りだす時間になっても、腎陽不足では水を司れず気化できないで、水が腸に降りてしまうため下痢になる。五更とは昔の時間の計り方で朝方のこと。

お腹が冷えて痛む→脾陽不足で脾胃を温められない。腎陽不足のせいでもある、腎陽は全身の陽の本。

足腰の冷痛、だるい→腰は腎の府(家)といい腎の状態が現れる。腎虚どれにも現れるが、冷え(畏寒・温めると緩和)があるので腎陽虚。

尿清長→寒証、陽虚証に多い。

尿漏れ→腎気も虚していて、腎気不固となるため二便(尿・便)を司れない。便の漏れもおこりやすい。

むくみ→腎の水を司る機能が低下、下半身(特に足腰)に停留しむくむ。

耳鳴り→腎は耳に開竅する(通じる)。腎の虚衰は耳の虚衰となり現れる。

めまい→腎精(腎の陰陽)と深く関わる脳を養えない。

心悸→全身の陽の本である腎陽不足で、心陽も不振になる。心は火に属する陽の臓。

疲れ、気力がない、顔晄白→気の不足。脾は気血化生の源、腎精は元気の源。気虚の顔色は淡泊や   萎黄 だが、気虚の悪化で陽虚になると、むくんだような白くツヤのある感じ。

舌淡胖大、歯痕→気虚の疑い。気不足でゆるんだ、ぼてっと感じ。

苔薄滑→滑は水分の多い感じ。脾の運化・腎の水を司るが低下し水湿の停滞が疑われる。

脈沈遅→虚証、陽虚証の脈象。

 

弁証

脾腎陽虚証

 

立法

温補脾腎・渋腸止瀉

 

方剤

四神丸、真人養臓湯など

 

よく使う食薬

補気類・・・穀類、芋類、鶏肉、牛肉、干し椎茸、栗、インゲン、ニンジン、吉林人参、黄耆、山薬  など。

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温裏類・・・唐辛子、胡椒、山椒、肉桂、フェンネルシード(小茴香)、  クローブ(丁字)、乾姜など。

助陽類・・・羊、エビ、ナマコ、クルミ、冬虫夏草、鹿角、淫羊藿、杜仲、 益智仁など。

収渋類・・・五味子、蓮の実(蓮子)、オニバスの実(芡実)、      ナツメグ(肉豆蔲)、石榴皮など。


弁証施膳

牛肉と長芋の梅辣湯(dscn05684人分)

牛赤身肉100g、白ネギ1本、長芋70g、ニラ1/2束、梅干し2~3個、 唐辛子1~2本、ナツメグ少々、ニンニク・生姜のみじん切り各小さじ1、酒・ごま油 各適宜。

作り方

牛肉は細切り、白ネギは千切り、ニラはざく切り、長芋は大きめのさいの目に切る。唐辛子は輪切りにする(種も使ってよいが辛くなるので注意)。

鍋に油少々を温め、ニンニク・生姜、ナツメグ、唐辛子、梅干しを入れて炒める。梅干しをつぶしながら炒め、香りが出てきたら牛肉を入れて炒める(種は入れたままでよい、香りが出る)。

水と酒、ネギ、長芋を加えて軽く煮る。塩味と酸味をみて、足らなければ塩と酢で味を調える。(梅干しを足してもよい)

仕上げにニラを入れてひと煮立ちさせる。

酸辣湯の酸味を梅干しに替えてあります。塩気や酸味に違いがあるので、加減してください。辛味の方は、山椒や胡椒に替えることができますし、牛肉を鶏肉や羊、エビに替えてもいいですよ。脾腎を温めるオリジナルメニューを作ってみてください!牛肉と梅干しからいいダシが出ますが、干しエビを少し加えると味に深みが出ますし、目的にも合っています。

 

ポイント

下痢はさまざまな病証に、よく現れる症状です。下痢の状態は病証によって違いますが、下痢になる時間も病証を探るヒントになります。

明け方の下痢→五更泄瀉といい、腎陽虚証、脾腎陽虚証によく見られます。

昼間の下痢→脾気虚証によく見られます。

情緒の刺激により下痢→肝脾不和証によく見られます。

急性の下痢→食べ過ぎ、冷え(寒邪直中)、食中毒、伝染病などでよく見られます。

 

いかがでしたか?症状はなるべく細かく書いているつもりですが、ここには気虚の基本的な症状を書いてはいません。

陽虚証は、気虚の悪化でひきおこされることが多いです。書かれていなくても、気虚の症状の多くは  見受けられるということを頭の隅に置いておいてくださいネ!

お付き合いいただき、ありがとうございました。

 

 

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